緩和剤

「おい、なんだコレは…」

「???…何が?」


炬燵でテレビを見ながらゴロゴロしていると、
先程まで一緒に寛いでいた金ピカが急に殺気を放ってきた。


「惚けるな!貴様、誰の許しを得てその身を晒したっ!!!」

「は、はぃぃいっ???」

「好き放題させおって…それを印した者共々、なぶり殺してくれる…」


早口に怒りを露にし、彼の背後が眩しく光り輝く。
ぐにゃりと歪む空間から物騒な刃物が現れるのを確認して、慌てて炬燵から飛び出して彼の挙げられた右手にしがみつく。


「ちょ、タンマたんまっ!!!言ってる意味解らない!」

「見苦しいぞ !ではその首にあるものはいったい何だと言うのだ!」

「…首?」


一先ず物騒な刃物をしまってもらい、指摘されるまま鏡で首筋を見てみる。

紅斑の発疹が3つ。


「あぁ、何か痒いと思った。」

「ハッ!この期に及んでまだしらをきるつもりか?」


私の呟きに、彼は間髪入れずに怒声を浴びせる。
季節は冬真っ盛り、蚊なんて居るものか…と言いたいのだろう。


「虫刺されじゃないよ、コレ蕁麻疹。」

「じ……何だ?」


眉間に皺を寄せた彼に、苦笑のまま続ける。


「蕁麻疹っていう…まあ病気みたいなモン」

「病だと?」

「そ、皮膚病の一種でね…正確にはアレルギー性疾患ってヤツなんだけど、たまに発疹が出るの。薬飲めば症状は治まるから」


呆けた金ピカを放置して棚の引出しを漁る。


「えーっと、薬どこだっけなあー…?」


棚の引き出しを上から順に開けて中を丁寧に見渡していると、何か言いたそうに背後で薬を探す私を見詰める金ピカ。


「んー…コレは鼻炎の薬、コッチは咳止め、鎮痛剤…風邪薬に解熱剤……あ!あったあった。」


ガサガサと様々な種類の白い紙包の中からお目当ての『抗ヒスタミン剤』を発見した。
パキパキと用量分の薬を取り出し、台所に向かう。

片手でコップに水を少しいれた所で背後から声がした。



「 よ、その病は治らぬのか?」


先程までの殺気と覇気は何処へやら…
珍しく心配そうな眼差しで見詰める金色。


「治る人も居るらしいけど…私の場合は慢性って診断されたし…こう特発性に出るのも珍しくないからなあ…」


私はトーンを変えずに医者から言われたままの事を伝え、勢いよく薬を口に投げ込み、水で飲み込んだ。


「今の医学じゃハッキリした発症の原因も解ってない様な病気だし…まあ治療方法はあるんだし、上手く付き合ってくしかないんだよ」


ふぅ、と一息吐いてから金ピカに向き直り
そう続けると、さして重苦しい話でもないのに目の前の金色はまるで大切な物を無くしてしまった時の子供みたいな顔をしていた。

そっと背に回される腕。


「なに、薬に頼らなきゃやってらんない…貧弱な人間を憐れんでくれてんの?」


冗談ぽく笑ってやる。


「いや…我にはお前達の様に我が身を病に侵される等という経験が無い。だがそれ故に、お前達が生きようと知恵を持ち、もがき葛藤するその儚い生を、尊いと思ったのだ…」

「……そっか」


そういえば…この金ピカが主人公の斜亊詩を読んだ覚えがあるけれど…彼は無二の友人を亡くし、『生』への執着から旅をし、葛藤と絶望の内にその生涯を綴じるのだった。
今のコイツに、きっと問い掛けたら殺されてしまいそうで言わないけど…
その生涯の中で納得のいく「答え」を受け入れる事が出来たのか…聞いてみたくなった。

そっと体を離し、再び炬燵に腰を降ろすと
真横に金色がピッタリと肩を着けて座ってきたので内心少し驚いた。
怒られるのを覚悟して相手の肩に頭を乗せると、優しく頭を撫でられた。

何だか先程から調子が狂う。

こんな風に甘えていいもの何だろうか?と、ぐるぐる思考を廻らせている間に赤く熱を持つ頬。



「…ゴメン、ギル……この薬ね、飲むと副作用で…眠くなるんだ…」


照れ隠しに顔を伏せ、瞳を閉じた。
嘘は言っていない。

すると普段よりも優しい声音が耳元で囁かれる。


「…よい、そのまま眠れ。」

「ん…」



体を寄せたまま、お互いの心音を重ねながら、眠りに落ちた。


私も薬の様に、彼の『何か』を緩和出来たら良いのに…


そんな事を思った。

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